事務所通信

事務所通信2023年6月号

経営:信頼される会社へ 会社と経営者の資産をしっかり分けよう

会社の資産と経営者個人の資産の区分が曖昧になりがちな中小企業では、外部関係者からの信頼を高めるための第一歩として、会社と経営者個人の資産を明確に区分・分離することが重要です。そのための具体策としては、

①経営者個人が所有する資産が会社の業務に使われている場合、賃貸契約書を作成して会社から経営者へ適切な賃料等を支払う

②事業に使っている経営者個人の資産はできる限り会社所有とする などが挙げられます。

 また、「経営の基本」である現金管理も、会社と経営者個人の資産を区分するための重要な対応策となります。次のような対応が自社で徹底できているか見直してみましょう。

〇小型の金庫やコインカウンター等を用いて、会社と個人の現金が混ざるのを防ぐ

〇現金出納帳と実際の現金の残高合わせを毎日行う

〇クレジットカードは会社用と個人のカードを分けて使う

〇立替金および経営者への仮払金や貸付金は、早めに精算する


会計:月次決算データは宝の山 経営に活用しよう

会社経営者にとって、経営意思決定の大きな「拠りどころ」となるのが「変動損益計算書」です。変動損益計算書とは、売上高の増減で変化する費用を変動費に、売上高にかかわらず発生する費用を固定費に分類して表示した損益計算書のことです。通常の損益計算書に比べ、変動損益計算書は売上が変わった時のシミュレーションが簡単で、例えば「売上増に伴って新しく従業員を採用した場合、利益がいくら変わるのか?」といった経営上の判断をする時に役立ちます。


そして、変動損益計算書の大前提となるのが、正確な月次決算データです。そのためには、

①適時・正確な記帳

②証憑の整理や仕訳入力等を自社で行う「自計化」

③請求書や経費精算の徹底管理

上記の3つのポイントを押さえましょう。月次決算を徹底し、変動損益計算書で自社の経営状態をタイムリーかつ正確に把握することで、問題点等に迅速に対応できるようになります。


税務:生前贈与には注意! 相続財産への加算期間が延長

令和6年1月1日から、贈与税と相続税のルールが大きく変わります。贈与税には2つの制度があり、1つは「暦年課税制度」、もう1つは「相続時精算課税制度」です。令和6年1月1日以降の各制度の改正内容は、次の通りです。

①暦年課税制度

〇相続開始前7年以内の贈与額を相続財産に加算して相続税を算出(納付した贈与税額は差し引く。加算期間は順次延長)。

○延長した4年間(相続開始4~7年前)に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算しない。

②相続時精算課税制度

○現行の暦年課税の基礎控除とは別途、110万円の基礎控除が創設。

〇贈与した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時に評価額の再計算が可能。



事務所通信2023年7月号

経営:黒字経営への道しるべ(第1回)「社長の成績表」変動損益計算書を見てみよう!

見込んでいた儲けの額と、決算書や損益計算書上に表示される「売上総利益額」の数字とに差があると感じたことはありませんか?

このような場合、変動損益計算書を利用することで、頭の中でイメージしていた利益構造と実際の数字とを一致させることができます。変動損益計算書は、すべての費用を売上高に伴って増減するか否かで「変動費」と「固定費」とに分けて表示した損益計算書で、売上の増減で限界利益がどれくらい変わるかが把握しやすくなる、などの特長があります。

また、変動損益計算書は社長の意思決定の結果が表れる「社長の成績表」ともいわれ、

①自社の製品やサービスが顧客や市場に評価された結果

②儲けの範囲内で経費をどのように使ったか

上記2つの内容が表示されます。

7月号から開始の全6回連載「黒字経営への道しるべ」では、「いま、自社に何が起きているのか?」を読み取り、次の打ち手を考えるために欠かせない変動損益計算書のポイントについて解説していきます。


消費税:インボイス制度3か月前対策 自社のインボイスは要件を満たしていますか

インボイス制度への対応はお済みでしょうか。制度開始を目前に控えたいま、自社がインボイスとして発行する請求書等に記載事項のモレがないかあらためて確認しましょう。

インボイス制度では、現在、使用している請求書等(区分記載請求書等)に、

①登録番号(「T」+13桁の数字)

②適用税率

③税率ごとに区分した消費税額等

上記3つの記載が必要です。記載事項にモレがないかを確認しましょう。いわゆる「レシート類」の簡易インボイスには、上記①および②③のいずれかの記載が必要になります。

インボイスに記載する氏名・名称等は、屋号や省略した名称でも構いません。ただし、電話番号を記載するなど、インボイスを発行する事業者が特定できることが必要です。

なお、インボイスに記載する「税率ごとに区分した消費税額等」について生じる1円未満の端数処理の方法(切上げ、切捨て、四捨五入)は、事業者の任意で決めて構いません。ただし、端数処理は1つのインボイスにつき、税率ごとに1回のみとされています。


事業承継:令和6年3月31日まで 「特例承継計画」提出の検討を!

一定の要件を満たすことで、事業承継の際に贈与税・相続税の納税を猶予する「特例事業承継税制」。同制度を利用するには、令和6年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出して確認を受け、令和9年12月31日までに自社株式の贈与や相続等を行う必要があります。

令和6年3月31日までに特例承継計画を都道府県へ提出していない場合には、その後期限内に自社株式の贈与や相続等を行っても、特例事業承継税制を利用することはできません。そのため同税制を利用する可能性があれば、まずは特例承継計画を作成し、早めに提出しましょう。

特例承継計画の作成・変更には、税理士等の認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けることが必要です。



事務所通信2023年8月号

経営:黒字経営への道しるべ(第2回) 売上高に注目してみよう!

社長が最初に意識すべき「売上高」を、変動損益計算書で毎月確認いただきましょう。そのうえで、売上高が「増えた理由」「減った理由」を社長と一緒に探り、社長のここ1か月の経営感覚と、実際の数字の変化をすり合わせることが重要です。

その際、特に取引先別売上高を確認してみてください。主要な取引先について、当月と前年同月の売上高を比較し、「なぜ、この取引先からの売上高が上がっている/下がっているのか」、その背景や要因を考えてみると、売上高を伸ばす大きなヒントになります。

基本的に、売上高は「販売単価×販売数量」で決まるため、売上高を伸ばすには、販売単価を上げるか、販売数量を増やすか、そのいずれかが必要です。販売単価と販売数量、どちらを重視するのかを決めるのも大事な経営判断の1つです。社長と一緒に売上高のアップを目指しましょう。


消費税:インボイス制度直前対策【本則課税事業者向け】

受け取るインボイスの対応状況を確認しましょう。

取引先から受け取る仕入インボイスについて、取引先の協力を得て、登録番号やインボイスの様式を確認しておきましょう。自社の経理処理に影響がある場合は、取引先と検討することも必要です。

インボイスを発行できない免税事業者等からの仕入については、仕入税額控除ができなくなる分、消費税の納税額が増えることになります。ただし、経過措置として、令和11年9月30日までは一定の割合を仕入税額控除することが可能です。

免税事業者等である取引先に対して、適格請求書発行事業者への登録を要請する際、要請に応じないことを理由に、価格引き下げや取引中止を一方的に通告する、著しく低い価格を設定するなどの行為は、独占禁止法や下請法等に抵触するおそれがあります。


トピック:自社を客観的な視点で見てくれる 金融機関とコミュニケーションをとろう!

「金融機関と接するのは苦手」という方もおられるのではないでしょうか。金融機関と話をするときの重要なコミュニケーションツールが、日々きちんとつけられた帳簿(仕訳)を基に作成された「決算書」です。自社の健全な経営努力と正しい経理処理の賜物である決算書こそ、金融機関と話をするための共通言語となります。

金融機関とのコミュニケーションにおいては、頻度も重要です。自社の強みや長所を知ってもらうためにも、積極的かつ定期的に自社の情報を提供・報告しましょう。自社を客観的な視点で見てくれる金融機関との対話を通じて、事業上のアイデアや気づきが得られることもあるからです。業績の良し悪しにかかわらず、経営に関するデータを企業自ら開示することは、融資の必要性等をいち早く金融機関に伝えることにもつながります。そのため、決算書に加えて、まずは四半期から試算表を提供することを目指しましょう。



事務所通信2023年9月号

消費税:インボイス制度直前対策 要注意! 令和5年10月1日を“またぐ”取引のインボイス

令和5年10月1日のインボイス制度開始後、原則として、売手は買手からの求めに応じて、インボイスを発行しなければなりません。ただし、売手において課税資産の譲渡等(資産の引渡し、貸付け、役務の提供)が9月30日以前に行われた取引については、請求書等の発行日が10月1日以後であっても、現行の請求書(区分記載請求書)で問題はありません。

請求の締め日が20日など、月の末日でないケースでは、「9月分」と「10月分」に請求書を分けて発行するなどの対応が必要になります。

制度開始前からインボイスを発行しても問題はないので、準備ができた時点でインボイスに切り替えておくと良いでしょう。


経営:黒字経営への道しるべ(第3回) 限界利益をしっかり確保しよう

経営において売上高と並んで重要な指標となるのが「限界利益」です。資源高や円安の影響で原材料や燃料等の価格が上がっている状況では、利益の確保が難しくなりがちです。「昨年より利益が出なくなった」と感じている場合、今一度限界利益がしっかり確保できているか確認する必要があります。

限界利益をアップさせるには、「販売価格を上げる」「変動費を下げる」「商品の組み合わせを考える」という3つの打ち手が挙げられます。

限界利益が増加すると、設備投資や従業員の給料、販売促進や新商品開発などに、より積極的に予算を充てることができるようになります。また、黒字経営のためには、必要となる固定費に目標とする経常利益を加えて、限界利益の目標を設定することが重要です。

自社の状況を踏まえて、打ち手を検討してみましょう。


トピック:他人事じゃない!「物流の2024年問題」と荷主にできること

仕入、出荷、備品購入などでお世話になる、企業の活動を支える大切なパートナーであるトラックドライバー。そのトラックドライバーに、2024年4月1日から時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されます。それにより輸送能力の不足が懸念されているのが、「物流の2024年問題」です。

物流業界では現在、輸送能力の維持・確保のために賃金水準の向上や労働時間の短縮など、トラックドライバーの労働環境改善に向けた取り組みが検討されています。その結果、輸送にかかる日数の増加や運賃の上昇など、荷主であるさまざまな事業者も影響を受けることとなります。決して、物流業界だけの問題ではありません。

荷主側では、例えば、運賃の改定分を価格転嫁できるよう取引先と交渉する、自社で届けられるものは直接届ける、といった対応策を検討する必要があるでしょう。また、

①短納期または急な配達・集荷依頼など負担のかかる依頼を見直す

②自社の職場を改善して荷揃えや荷おろしを効率化する

上記の2つのように運送会社に対する協力体制を整えておくことも重要です。